怒ることは、自分の知恵のなさを認めるようなものだと指摘する人も多いですが、新人や部下の成績が期待に達しない場合「どうしでできないんだ!」と怒鳴りたくなることも現実的にはあると思います。しかし、「怒鳴る」「怒る」と「叱る」は別ものです。新人や部下がミスをしたり、なにか問題が起きたりしたとき、感情的にならず、いかに適切に「叱る」指導できるかが指導者にとって重要になります。
ただ、絶対的な答えが存在しない「叱り方」の問題はいつの時代も話題になります。入社してきたばかりの新人や部下を指導するときに悩みはつきものです。
・「怒る」と「叱る」の違い
・新人や部下の育成方法、コミュニケーションの仕方
こういった悩みを抱えている人はこのような本がおススメです。
『10秒で新人を伸ばす質問術』(島村公俊 著、東洋経済新報社)
部下の育成にかける時間を最小限に抑え、なるべく早くで新入や部下を一人前にするために「質問」をすることを活用した教え方が紹介されていています。
著者の島村公俊さんはソフトバンクで2万人の社員教育に関わったのちに独立し、OJTトレーナー研修や新人研修などの研修サービスを通じ、人材育成の支援を行っている現役の方です。この本は、人材育成の現場で提供されている新人教育法の1つで、約10年間のソフトバンクで仕事をした経験や起業後に多くのクライアントとの仕事を通じて磨き上げたメソッドが詰まっている一冊です。
新人育成に携わる指導者は、新人や部下に対して「早く一人前になってほしい」と思いつつも、教える時間の捻出や教える方法分からないといった問題に直面していると思います。上司にも自分の仕事があるため、「指導する時間を最小限にして、新人を最速で一人前に育てるにはどうしたらいいのか」という課題に対して、長年にわたって試行錯誤を繰り返してきた結果を本書で説明してくれています。
叱り方と褒め方
特に難しいのが新人育成時の「叱り方」と「褒め方」です。
誰でも、叱られるのは嫌なものですが、叱られずに成長することはできないません。自分で気づかないことも多々あります。そのため、指導者としては叱り方について意識しておく必要があります。幼少期より叱られることが少なくなっている現代では、叱られた経験の少ない新人もいます。叱られると「できないやつの烙印」や「嫌われた」と受け止めてしまわれる可能性があります。そのため「叱る」ことには意味があると、事前に新人に伝えておく必要があります。また、関係性が良好な場合、叱った時に信頼関係があるため、急に叱ると「信頼している人から怒られた」と相手が深く、必要以上に受け止めてしまう危険があります。叱ることの必要性、また叱る時は宣言することが必要だということを本書で詳しく教えてくれています。
・叱ることの必要性の説明
・叱る前の「叱る宣言」
私はあなたが成長していく上で、言わなければいけないことはしっかりと伝えるタイプなんだよね。もし叱られてもあまり凹みすぎないようにね
出典:10秒で新人を伸ばす質問術(165ページ)
また、入社後しばらく経った新人への対応方法を変更する場合は、遠回し手でもいいのでその方針を相手に伝えたほうがいいのこと。
「今回のあなたのミスは私があなたを叱るべきタイミングで叱れなかったことも要因のひとつだと考えています。今後は、あなたの成長を願って、叱るべきときはその場ですぐに叱りますね」
出典:10秒で新人を伸ばす質問術(166ページ)
相手との接し方やコミュニケーション方法を変更する場合は、相手やその時の関係性にもよりますが基本は事前告知、また自分の気持ちを素直に表に出すことが重要ということです。
叱るときの目線
適切に叱る際には、「知識」「行動」「スタンス」の視点から、ミスや問題の原因を探ってみるべきだと本書ではうたわれています。
1. 知識が足りないのか
2. 行動が足りないのか
3. 仕事に対するスタンスが足りないのか
コミュニケーションを通じて「知識が足りないから苦しんでいるのか」「それとも行動に移せていないことが原因なのか」「そもそも仕事と向き合うスタンスがなっていないのか」を意識して観察すべきだと言っています。それでも、真の原因がどこなのかを判断するのが難しい場合もあるため、その時は本人に具体的に質問をしてみるべきだとのこと。例えば進捗が滞っているとか、目標に届いていない理由について、それとなく聞いてみると案外簡単に状況を教えてくれるものです。
その回答次第で原因を特定しやすくなります。
「○○がよくわからないんです」
⇒ 単純に知識が足りない
「集計に時間がかかってしまって」
⇒パソコンのスキルが足りない
「怒られるのが怖くて、新規の飛び込み営業ができません」
⇒ 行動不足
「景気もよくないですから……」「今回は、お客様の対応もよくなかったんです」
⇒仕事に対するスタンスがなっていない
このように、質問を通じて「どこに原因があるか」を見極めたうえで、叱る」ことがスピーディーな成長につながるという考え方です。
周囲への影響度について
叱るとき、このような伝え方をすることがあるのではないでしょうか。しかしこのような言葉だけでは効果的ではなく、真剣に受け止めてくれないこともあり、ただの空回りで終わってしまうこともしばしばです。
①「仕事遅いよ」
②「結局なにを伝えたいの?」
③「できるんだったら、最初からしっかりやりなよ」
④「気のゆるみがあったよね」
⑤「集計作業が遅いよ」
⑥「力が入りすぎているよ」
同じ内容を伝えるのであっても、以下のようにそこに適切なフレーズをつけ加えて自分の仕事が社内の関係者にどのような影響を与えているかの情報も付け加えて伝えてあげることが大切だということです。
①「仕事遅いよ。チーム全体にどんな影響を与えていると思う?」
②「結局なにを伝えたいの? そもそも参加者全員に届くメッセージなのかな?」
③「できるんだったら、最初からしっかりやりなよ。まわりがどれくらい期待しているか知ってるの?」
④「気のゆるみがあったよね。迷惑をかけてしまった人もいるのでは?」
⑤「集計作業が遅いよ。実はみんなが待っていることに気づいてる?」
⑥「力が入りすぎているよ。まわりの人は気軽にアドバイスできないんじゃないかな?」
変更後の内容の共通点は、周囲への影響度を伝えて「まじめに取り組まないとまずいかも」と思わせていることです。指摘するまで、周りに迷惑をかけているとは想像もしていなかったという人は少なからずいます。そこで周囲への影響を伝え、腹落ちさせる必要があるということです。その結果、正しい行動への1歩に誘導することができます。
褒める時は「評価」をはさまずに「事実」を
人をできるだけ早く一人前にするためには、叱るのと同じくらい、褒めることも大切です。ただ「なんとなく」褒めるても効果もあまり期待できません。
あなたは、人を褒める時どんなことを意識していますか?
例えば、あなたが、携帯電話ショップで働く店長だとします。その店舗では、毎朝朝礼があるのですが、必ずその朝礼の1時間前に出勤してくるある女性スタッフがいます。そのスタッフとあなたの関係性は、日頃からよく揉めていることもあり、残念ながらあまりよくありません。そのような関係性ですが、彼女は早く出勤していろいろ準備してくれています。そのことをあなたは褒めたいと思っています。彼女をほめるには、次のどちらの言葉がより適切だと思いますか?
例①「いつも早くお店に来て、すごく頑張っていますね」
例②「いつも早くお店に来て、棚を拭いたり、カタログを整理してくれてたんですね」
まずは①の「頑張っていますね」という褒め言葉ですが、使われる機会は多いのですがこの表現は意外と誤解を生むことがあります。上記のシーンが実際にあったようでその時には「頑張ってるってなんですか。無理してほめなくてもいいですよ」という返答が返ってきたことがあったそうです。
このような結果になった原因は、なぜでしょうか? 彼女はなぜ、そのようなネガティブな反応を示したのでしょうか?
考えられるのは、その店長と女性スタッフとの信頼関係が希薄すぎたことです。また、彼は店長にもかかわらず、配属されたばかりで業務の習得が不十分な状態だったといいます。そのために「頑張っていますね」という言葉が偉そうに聞こえてしまったということです。このように。「頑張ってますね!」「偉い!」などのフレーズを使う時には、相手との信頼関係が構築されていることが前提です。信頼関係が構築していないとあらむ誤解を生むことになります。
では、どのように褒めるべきでしょうか? おススメの言い方は②の例のように「いつも早くお店に来て、棚を拭いたり、カタログを整理してくれてたんですね」と事実を事実のまま伝えることです。そうすることで、相手に真意が伝わりやすくなります。ポイントとしては、日頃の観察を通じて、褒める部分を、評価を挟まず、事実を事実のまま伝えるということです。「いつも早く出社している」という事実と「開店の準備をあれこれとしてくれていた」という事実を伝えることで、相手にしてみれば「細かいところまで見てくれたんだ」と思います。この方法であれば、褒めやすいと思います。
まとめ
事実を事実のまま伝えるためには、日ごろから「観察」することが必要になります。信頼関係を構築するために「観察」してありのままの事実を伝え、そして感謝の気持ちは照れずに素直に伝えること。それがコミュニケーションを円滑にし、信頼関係につながります。そうすることで、相手を叱った時でも相手は自分のために言ってくれているのだと思うようになり、成長のスピードアップにつながります。仕事はひとりではできません。新人や部下の成長があってこそ、チーム、部署、しいては会社の成長につながります。
叱るべき時には正しく叱り、褒めるべき時は正しく事実を褒めることができるように常日頃から観察してコミュニケーションをはかっていきましょう。